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2019/10/28

甲州から生まれる日本ワインの可能性。シャトー・メルシャンが育む「甲州ワイン」の世界

かろやかに、華やぐ。ふくめば辛口、そして香り高く。日本固有のブドウで造る「甲州ワイン」は、静かに人々の舌で踊っています。今日はこの楽しみを届けにきました。

「シャトー・メルシャン」で造り手を務める高瀬秀樹は、香りや味わいの研究職に就いた後、フランスで醸造を学んで帰国。研究と実践の視点からワインを造る高瀬に、ブドウ産地の個性を活かす「甲州ワイン」の魅力について聞きました。

高瀬 秀樹
2005年に入社後、ワインの香りや味わいに関する研究に約10年間従事。2014年に渡仏し、ボルドー大学醸造学部に在籍し、DUAD(ワインテイスティング適正資格)を取得するとともに、フランス各地(ポムロール、エルミタージュ、ニュイ・サン・ジョルジュ)で醸造を経験。2016年に帰国し、2017年1月からシャトー・メルシャンに着任。2017年3月にシラーワインの特徴香の研究で博士号を取得。研究者の視点でブドウ、ワインを見つめながら、海外での醸造経験を活かし、シャトー・メルシャンの絶え間ない進化を目指す。

日本ワインが生まれた土地、山梨

──甲州ワインはいつ頃から造られているのでしょうか?

高瀬:まず、日本でワインが造られるようになったのは、1877年に誕生した民間のワイン会社「大日本山梨葡萄酒会社」がルーツといわれています。 甘味料などを加えた「甘口ワイン」が好まれた時代を経て、1980年代頃からはブドウの個性を活かした本格的なワインへ、飲み手の好みも移っていきました。その背景には、食事と合わせる海外製の「辛口ワイン」の楽しみが広がったことも働いています。 日本ワインはこの頃、ある転機を迎えました。日本固有のブドウ品種である「甲州」を使った辛口ワインの造り方が確立されたのです。

──海外由来のメルローやシャルドネといったブドウ品種との「甲州」の違いはどこにありますか?

高瀬:甲州は薬用や生食用として800年以上も栽培されてきました。ただ、実は20年ほど前まで「酸味や香りが弱く、個性のないブドウ」と扱われ、甲州を使ったワイン造りには消極的でした。

それを変えたのが、1983年にシャトー・メルシャンが成功させた「シュール・リー(Sur Lie)」製法のワイン造りです。発酵終了後に通常は捨ててしまう「オリ」を残し、春先まで一緒に貯蔵しておくんです。この製法により、甲州特有の苦味を減らし、飲みごたえのある辛口ワインを造られるようになりました。さらに、土地ごとに甲州の味わいにも個性があることを活かし、“辛口の甲州ワイン”の歴史が始まったといえます。 それが日本ワイン発展に大きな影響を与えたのは言うまでもないこと。つまり、今の日本ワインは甲州から始まったともいえるのです。

ワインは農作物。ブドウの特徴から表現していく

──甲州という品種は同じでも、栽培地で味わいが変わるのですか?

高瀬:甲州は山梨の土地に合いやすく、どこで植えても育ちやすい品種なのですが、主に標高差から来る「気候」の変化と、生育する「土壌」の違いで特徴が変わるんです。たとえば、粘土質であれば力強い味わいになったり、砂土ならば香りが華やかになったり。その特徴は、造るワインにもそのまま表れてきます。

そこで、シャトー・メルシャンでは2017年から、“適品種・適所”のコンセプトのもと、土地ごとの個性を引き出した「テロワールシリーズ」を手がけています。まずは、造りたいワインのスタイルや味わいをイメージし、それに合ったブドウが採れる産地を決めていきます。

そして、実際に採れたブドウから、さらに造るワインの“在り方”を考え、ベストな1本を生み出すことを意識しているんです。

──土地ごとの個性を見極めるのは難しそうです。

高瀬:そこも一つの技量といえるでしょうね。また、最適な時期に収穫しなければ糖度や香りのピークを逃してしまいます。1週間、あるいは数日単位でも変化が起きますから、生産農家さんの協力も欠かせません。

──農家二人三脚で造り上げていく、と。

高瀬:その通りです。収穫時期の幅が広いのも甲州の面白いところで、早ければ8月末から収穫が始まり、10月の終わり頃にかかる産地もあります。採る瞬間は「午前中」が香りのピークといわれるので、特に「きいろ香」を作るブドウは、シャトー・メルシャンの社員がワイン畑を訪れ、朝6時半から収穫させてもらっています。

──ワイン造りだけでなく収穫まで徹底されているのですね。

高瀬:そうですね。シャトー・メルシャンでは「ワインは農作物」という考えを持っています。「良いワインとは、その土地の気候・風土・生産者によって育まれるブドウのそのままを表現したものである」という信念が、私たちのブランド・コンセプトですから。

シャトー・メルシャンが育む「甲州ワイン」の世界

──生み出された甲州ワイン、それぞれの特徴を教えてください。

高瀬:特徴的なものからご紹介すると、まずは「岩出甲州きいろ香 キュヴェ・ウエノ」でしょうか。山梨市岩出地区にある、生産者の上野氏の畑から採れた甲州だけを使った1本です。水はけの良い砂土でつくられ、ブドウが熟しやすいので、凝縮感のあるワインができやすい。香りのポテンシャルも圧倒的に高いです。

品名の「きいろ香」は、甲州に“柑橘の香り”が含まれることに由来しています。海外品種の「ソーヴィニヨン・ブラン」にある香りとして有名なのですが、同様の要素が甲州にもあると発見されたことから、香りを活かした造り方が生まれました。国内外に甲州ワインの評判を押し上げたすスタイルで、なおかつ単一のブドウ畑というのは、ラインナップの中でも特別な1本といえるでしょう。

同じスタイルの「玉諸甲州きいろ香」は、甲府市玉諸地区で採れた甲州を使ったものです。笛吹川の右岸に位置しており、成熟が早く、きいろ香に合う香り良いブドウが採れます。香りの敵である酸化を防ぐために醸造工程でも工夫を凝らしています。フレッシュな酸と香りのバランスを楽しんでもらいたいですね。

──県名をストレートに冠した「山梨甲州」もありますね。

高瀬:山梨県全域から集めた甲州を使い、シュール・リー製法で造り上げた、最もベーシックな1本が「山梨甲州」といえます。うまみと味わいの厚みが出る代わりに、酵母由来の香りが付きやすい製法でもあるので、両者のバランスを重視して仕上げています。

「岩崎甲州」は甲州市岩崎地区で、日本ワインの基礎を作った高野正誠さんと土屋龍憲さんの子孫が代々受け継いできたブドウ畑の「高野園」と「土屋園」から採れる甲州を、それぞれの特徴が活きるようにブレンドしています。

さらに、古樽で育成することによって風味を加えているのも特色です。古樽で発酵すると、樽の木材由来のニュアンスも、さらに味わいも深くなるのですが、どうしても果実の味わいや香りが隠れてしまうのが一般的です。ただ、この岩崎甲州はブドウ由来のポリフェノールが高く、苦味もがあるのですが、それらが樽で育成しても隠れすぎず、ちょうどいいバランスを保ってくれる。樽に負けない甲州なんです。

──こちらの「グリ・ド・グリ」というワインは、これまでのワインと色がずいぶんと違いますね。

高瀬:「笛吹甲州グリ・ド・グリ」は山梨県笛吹市笛吹地区の甲州を使ったワインです。標高が高く、火山灰も含まれていることから、糖度が非常に上がり、酸も柔らかい熟した甲州が採れるんですね。甲州は黒ブドウと白ブドウの間のような、赤紫色の皮を持っています。

その皮にはバラのドライフラワーや、りんごのコンポートのような香りと似た成分が含まれることがわかり、その成分をうまく引き出しつつ、赤ワイン的な造りの要素を入れることで生み出されたのが「グリ・ド・グリ」です。甘美な香りとふくよかな味わいが特徴ですね。

厳密にいえば白ワインでもなく、赤ワインでもなく、ロゼワインでもない。私たちは「オレンジワイン」というカテゴリーに位置づけています。

造るだけで唯一無二。日本だから楽しめる味わいを

──フランスに醸造を学び、日本でワインを造る高瀬さんから見て、これからの甲州ワインの可能性はどんなところに感じますか?

高瀬:甲州は日本の土着品種ですから、つまり「日本にしかないブドウ」です。そのブドウから造られたワインは海外にはありませんから、造るだけでも唯一無二になれます。また実際に世界から品質の良さも好評で、オレンジワインのようなユニークさも出せます。そういった意味では、甲州はとてもチャンスのある品種だと感じます。

「甲州ワイン」とひとくちに言っても、製法のこだわりやそこからうまれる味わいは様々。最後に、これから挑戦したいことを聞いてみました。

「やはり甲州は土地の個性がよく表れるだけに、畑ごとの違いを表現するようなワインをもっと造ってみたいですね。それから、樽やステンレスタンクの中で1年寝かしておくと香りや味わいがより複雑に変化するものもあります。いずれも少量本数の生産にはなりますが、それらを私たちのワイナリーで特別な商品として販売するといった試みも進めていきたいです。

ワイン業界に対しても、しっかり魅力を伝えていきます。きいろ香はコンクールでも評価されつつあるのですが、今後はグリ・ド・グリも国内外のコンクールに出品を続け、認知を広めていきたいですね。この味わいが甲州の可能性の一つとして注目を集められるように、頑張ってアピールしていきたいです」。

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