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2021/10/07

もっと日本らしいワインは造れる。「勝沼ワイナリー」丹澤史子が描く甲州ワインの未来

フランス・ブルゴーニュへの留学を経て、2021年に「シャトー・メルシャン 勝沼ワイナリー」仕込み統括に就任した丹澤史子氏。収穫日の決定や仕込みに関わるすべての人的配置、細かな醸造方法や期間など、ワイン造りのための全業務を統括する役割を担っている。

彼女の描く日本ワインの理想形とは。

そして、仕込み統括就任後初めての成果として新酒がお披露目となる、11月上旬の「シャトー・メルシャン 勝沼ワイナリーフェスティバル2021」に向けたワイン造りについて聞きました。

触れるほどに深まるワインへの興味

日本ワイン発祥の地・山梨県で生まれ育ち、現在も山梨県甲府市勝沼町でワイン造りにいそしむ丹澤。1冊の本がきっかけでワインの道を志すことになったと言います。

「もともと食べることが好きだったので、食品会社の開発研究者を目指して大学は農学部へ進みました。就職活動で、微生物をコントロールする酒造メーカーに興味を持っていた頃、父から浅井昭吾さん(※)の著書『ワインづくりの四季』を勧められたんです。

読んでみると、ワインにまつわる四季の仕事が、まるで情景が見えるかのように書かれてあり、栽培で試行錯誤するイメージが浮かんできたんです。そこから興味を持ち志望しました。さらに、入社試験前に行われた先輩たちとの交流会で、シャトー・メルシャンが取り扱う何十種類ものワインを試飲させてくれたのを覚えています。なんていい会社なんだ!と思って入社を即決めました(笑)」

※シャトー・メルシャン勝沼ワイナリー元工場長。“現代日本ワインの父”と称される。筆名:麻井宇介

入社後は、商品開発研究所へ配属。そこでマスカット・ベーリーAの醸造技術や、赤ワイン用ブドウ品種の生育過程におけるポリフェノールの質の変化の研究に取り組みます。そのなかで、分析値による味の変化など、研究とワインの質がつながっていくにつれ、ますますワインの面白さを知り、ワインの魅力にのめり込んでいきました。

「先輩方から『身銭を切ったことしか記憶に残らないよ。味覚が敏感な20代のうちに覚えておくべきこともある』と助言をもらって、ワイン会やセミナーに通うようになったのも、ワインにのめり込むきっかけでした。ただ、今なら『ビンでの熟成を前提とした赤ワインは、時間が経つことで味・香り共に変化しより魅力的になる』というようなことも納得していますが、当時は目の前のワインの5年前、10年前の姿を知らないので、先輩たちの言葉をにわかには信じがたい、と思っていました。ワインに関わりはじめて何年もたち、熟成の変化を体感する機会も増え、ようやく先輩たちの言葉が理解できるようになりました。」

留学先を自ら提案!ブルゴーニュでの経験

その後、さらにワインの知識と経験を深めるためフランス留学を志すことになりますが、当時、シャトー・メルシャンの留学先は、ボルドーに限定されていました。同じ研究所出身の研究者がすでにボルドーへ留学していたこともあり、同じ場所で同じことを学んでも会社としての知見が広がらないと感じた丹澤は、会社へ留学先としてブルゴーニュを提案することに。

「ブルゴーニュはボルドーと並び称されるワインの一大産地ですが、ワイナリーが所有する畑面積はボルドーほど広くなく、より小規模な単位でワイン造りが行われており、広大なワイン用ブドウの畑は少ない日本のブドウ栽培の参考となる点が多そうであること、また家族経営などの小規模なワイナリーが多いゆえにブドウ栽培とワイン醸造の両方を手掛けるヴィニュロンと呼ばれる人が多いことなどもブルゴーニュを選んだ決め手でした」

会社の想定とは異なる土地でワインを学ぶにあたり、“栽培と醸造”の両方を学ぶことを選んだという丹澤。

「シャトー・メルシャンとして醸造の知見はしっかりあるものの、栽培への知見がまだまだ足りないと感じていたこと、そして栽培と醸造の両方の経験を持つ勝野泰朗(※)からのアドバイスもあり、どちらも学ぶことに決めたんです」とその理由を語ります。

※2021年3月まで桔梗ヶ原ワイナリー長。現在は勝沼ワイナリー製造部技術課。2013年、ボルドー大学でのDNO(フランス国家認定ワイン醸造士・エノログ)の資格を得て帰国。

ブルゴーニュでの留学中は、座学での理論学習や作業実践から多くのことを学ぶ一方、世界有数のワイン産地ならではの体験から得ることも多かったのだそう。

「学校での学びも大きかったですが、日本に輸入されるワインがとても限定的であると知ったことでしょうか。現地では、スーパーやワイナリーで数多くのワインに触れ、日本に居る時とは桁違いに多くの種類のワインを飲む経験を積むことができました。それは本をいくら読んでも得られないものですから、ありがたかったですね。」

そもそもワイナリーで働くということは、ワイン造りの最盛期となる秋は、自分たちも収穫や仕込みの時期に重なります。そのため、秋にフランス旅行をし、ワイン造りの現場を見ることはできません。本場のフランスで、良いワインになるブドウを試食したり、実際のワイン造りの作業を間近で見たりしたことは、醸造家としてとてつもなく貴重な経験だったと、当時を振り返ります。

そんなブルゴーニュでの経験の中で、これまで丹澤が持っていた知見とは異なるワインの造り方に出会い、驚くこともあったと言います。

「やはり用いる品種が違うところで学べば、造り方も全く異なるのだと驚きました。日本ではマスカット・ベーリーAや甲州といった他国にない品種を扱いますから、ブドウの個性を見て、世界中のスタイルを参考にしながらも最適な造り方を選ぶ必要があることを実感しました。もっとマスカット・ベーリーAや甲州の魅力を引き出すような、美味しいワインも出来るはずだと、今は感じています。」

無理のない製法で作られた、地域に根付いたワインを

帰国後は、「勝沼ワイナリー」へと戻った丹澤は、技術課と品質管理課を兼務し、 生産計画やレシピの策定、技術の導入や改善などの業務に従事。ブルゴーニュ留学中に、通年での栽培業務を経験し、栽培に関する一通りのセオリーが身についたことで、これまで研究所で得た断片的な情報からの判断していた栽培現場にも意見や提案を出せるようになったと言います。

そして、2021年には「シャトー・メルシャン 勝沼ワイナリー」で仕込み統括に就任しました。ブドウの収穫時期を決め、ワイナリーの作業予定を組み、人員配置をして、ワイン造りの全てを一手に担う立場として采配を振るっています。

現在も、日々勝沼でワインと向き合う丹澤は、「甲州ワイン」の魅力や可能性をどのように考えているのでしょうか。

「私たちの日本人の普段の食事と最も相性が良いということが、何よりの魅力だと思っています。香水のような強い香りはなくとも、食卓でお茶のように寄り添ってくれる程よい渋みがある。日本食は世界的なブームですが、そこで共に楽しんでもらえる可能性が高い。フレンチやイタリアンのレストランで、オリーブオイルやバターなどを多く使う料理なら、確かにフランスやイタリアのワインが合います。ただ、これらのワインに繊細な焼き魚を合わせたいかと言われると、私にはちょっと疑問です。

野菜でも、たとえば南仏のナスは皮が堅く、くたくたになるまでオーブン焼きにして食べることが多いと思います。日本のみずみずしいナスは、さっと焼くだけでもおいしいですよね。甲州は、見るからに水分が多くみずみずしいブドウですが、そのみずみずしさを欠点とは思わずに、素直にワインに仕立ててあげたい。果実の魅力が、そのままお酒になっているのがワインの魅力的だと思うので。個人的には「甲州ワイン」をフランス人やアメリカ人の好みに合うように仕立てていく必要はあまり無いのではと考えています。あくまでもワインは、普段の食事に寄り添える飲み物としてあるべきだと思っているので。」

「同時に無理のない栽培、製造を続けなければ、日本に本当の意味でワインは根づかない」と丹澤は言います。

「ブルゴーニュの畑で働く人も、皆が科学者のように試行錯誤をしているばかりではなく、多くの人は何十年も肌で感じて経験してきたものを活かしながら無理せず仕事を続けているわけです。

無理のない栽培からできたブドウで、無理のない製法で造られた、地域に根付いたワイン。それこそが「日本らしいワイン」だと思うのです。私たちの味覚に合っていて、私たちが普段食べるものと相性の良いものであってほしい。それを実現できるのが、「甲州ワイン」の魅力ですね。」

  
 

■仕込み統括丹澤が初めてつくる、3つの新酒

ここからは、「勝沼ワイナリーフェスティバル2021」(通称:「勝フェス2021」)について、話を聞きました。

「勝フェス2021」は、日本ワイン業界全体が依然として厳しい中、「日本ワイン発祥の地である勝沼という産地と共生し、産地を盛り上げる」ことを目指して、勝沼にある10のワイナリーとともに日本ワインの魅力を発信するイベントです。

歴史を振り返れば、辛口甲州の大きな転機となったシュール・リー製法の技術公開を行うなど、日本のワイン産業発展のため、日本のワイン界を牽引してきたシャトー・メルシャン。現在でも他のワイナリーとは日常的に情報交換を行っていますが、最も深いかかわりになるのがこの「勝フェス2021」だといいます。

現在発売中の、「勝フェス2021」をとことん楽しむためのマストアイテム「おうちで勝フェスキット」。そのキットにも含まれる2021年の新酒について、魅力を語っていただきました。

「今年も、赤・白・ロゼの3種類を仕込んでいます。

『日本の新酒 山梨県産マスカット・ベーリーA』は、新酒らしからぬ、樽での乳酸発酵を行った本格的な赤ワイン。

『日本の新酒 山梨県産甲州』は、フレッシュな柑橘、桃などの香り、甲州らしい食事を受け止める渋味を調和させました。

また、赤い果実の香りがはじけるような、鮮やかなロゼになった『日本の新酒 山梨県産マスカット・ベーリーA ロゼ』は、「勝フェス2021」のために仕込んだ限定品で、現在ご購入いただけるのは「おうちで勝フェスキット」のみとなります。

詳しくは、「勝フェス2021」DAY1の「シャトー・メルシャン初の女性仕込み統括が語る、2021年日本の新酒」の中でお話しますので、ぜひお手元で楽しみながら、ご覧いただきたいです。

栽培と醸造を学び、日本とブルゴーニュのワイン造りを知っているからこその視点で、「甲州ワイン」の魅力を見い出し、さらなる可能性を追求している丹澤。最後に今後の目標を聞きました。

「私自身が山梨県の出身で、実家でもワイン用のブドウを作っています。もっと『甲州ワイン』が魅力的になり、日本の気候に合わせた栽培の工夫などを経て、価格や生産体制が見直されていき、ブドウ農家の方々にも還元できるようにしていきたいですね。

そこまでして初めて、日本に根づいた、日本らしいワイン文化が形作られていくと思うからです。

もちろん畑ばかりではなく、ワインそのものが魅力的になり、消費者に求められるものにならなければいけません。もっと多くの人に魅力的な飲み物になるように頑張りたいです。」

 
 

「日本を世界の銘醸地に」
これは、シャトー・メルシャンだけでなく“日本ワイン”全体が、世界中の人たちに愛されるように、という、長年先人たちから受け継いできたシャトー・メルシャンのヴィジョンです。
その言葉の通り、産地勝沼を盛り上げてきたシャトー・メルシャン 勝沼ワイナリー。
新しく就任した仕込み統括丹澤がこれから行う日本らしいワインづくりから、目が離せません。

  


 

【インフォメーション】
■イベント名:シャトー・メルシャン 勝沼ワイナリーフェスティバル2021
■日程: 2021年11月5日(金)19:00-20:30、11月6日(土)・7日(日)11:00-16:00
■参加(視聴)方法:現地 または、YouTubeにて無料配信
■内容:日本全国の皆さまと、一緒にワインを、そして日本を楽しむオンラインイベント。スマホがあればどこからでも一緒に楽しめるフェスティバルは海外ともつながって、昨年よりもパワーアップ!産地を盛り上げ、日本ワインを広くグローバルに発信します。

お部屋でも、ベランダでも、ピクニックしながらでも、ご家族と、大切な人と、もちろんお一人でも。画面の向こうには、遠い異国の景色、勝沼の豊かな自然、そしてワイナリーの仲間たちが皆さまをお待ちしています!

事前に「おうちで勝フェスキット」をゲットして、ワイナリーとお揃いのポロシャツを着て、一緒に新酒でカンパイしましょう!

 

~おうちで勝フェスキット~
今年できたての新酒(赤・白・ロゼから1本チョイス)、大人気セレクトショップ「ユナイテッドアローズ」×シャトー・メルシャンのコラボ限定ポロシャツなど、「勝フェス」を楽しむためのアイテムが入った限定キット。特に新酒のロゼは、勝フェスのために仕込んだ限定品!お届けは、山梨の新酒の解禁日11月3日(水)以降となります。10月24日(日)までにお申し込みいただくと、勝フェスまでに確実にお届けします。

■URL:https://drinx.kirin.co.jp/wine/chm/katsufes21/

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