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2021/06/18

産地は地域とともに育てていく。待望の「片丘ヴィンヤード」シリーズ誕生!

2021年の秋、シャトー・メルシャンのテロワールシリーズから「シャトー・メルシャン 片丘ヴィンヤード」が新たに誕生します。

長野県塩尻市の自社管理畑「片丘ヴィンヤード」は2015 年に開墾された、まだ比較的新しいブドウ畑。遊休荒廃地からブドウ畑へと生まれ変わって約7年、満を持して“片丘”の名を冠したシリーズワインがお目見えとなります。

それに先立ち、2021年6月26日(土)に「片丘ヴィンヤード」からオンライン配信イベントを開催します。

当日は、シャトー・メルシャン出身で同じく片丘でのワイン造りを盛り上げていく『ドメーヌ・コーセイ』の味村興成氏と、片丘という産地の魅力と可能性にまつわるトークセッションを予定。なぜ今、片丘にワインメーカーたちの熱い視線が向けられているのか。その理由について語り合います。

本記事では、片丘ヴィンヤードの立ち上げから、2018年の桔梗ヶ原ワイナリー開設にも携わってきた勝野泰朗と、今回のイベントにも登場する桔梗ヶ原ワイナリーの高瀬秀樹に、「片丘ヴィンヤード」誕生からワインが完成するまでの道のりと、それにかける想いを聞きました。

 
 

「片丘」という新しい産地の素晴らしさを伝えたい

― 日本のワイン造りにおける先進地であり、 メルローの産地として知られる長野県塩尻市。その市内にある片丘は、どのような土地ですか?

勝野:片丘という地名は、片側だけが穏やかな丘陵地帯になっていることからそう言われるようになったと聞いています。桔梗ヶ原と同じ塩尻市にあり、桔梗ヶ原ヴィンヤードからは8kmほど離れたところにあります。

片丘はもともと野菜畑が中心で、最近は大麦や蕎麦、牧草なども栽培されていますが、ブドウ栽培の歴史はほとんどありません。石が多く、比較的痩せた土地なので、野菜をつくるには苦労も多かったのではと思います。

一方で果樹を栽培するにはとても条件がよい土壌です。盆地を見下ろす眺望もよく、天気が良い時は北アルプスが見渡せる。私は初めて片丘の土地を訪れた時、前ゼネラル・マネージャーの松尾がこの場所に一目惚れした理由がすぐにわかりました。

勝野:桔梗ヶ原はすでにブドウで有名な産地なので、古くからのブドウ農家さんや、地元のワインメーカーとつながりのある生産者の方がたくさんいます。ですから、桔梗ヶ原で畑を広げるのはとても難しい。

でも、片丘にはまだ借りることができる畑があって、それも集約して借りられるというのはとてもメリットが大きいですね。「片丘ヴィンヤード」は北熊井と南内田の2ヵ所に分かれていますが、合計面積は「桔梗ヶ原ヴィンヤード」の4倍以上あります。

― 片丘という土地に出会うまでの経緯を聞かせてください。

勝野:長野県上田市に開園した「椀子ヴィンヤード」ができてから数年が経ち、“第二の椀子ヴィンヤード”になりうるような大規模な自社管理畑を探そうということになりました。1年以上各地を探し回っても見つからず、桔梗ヶ原のある塩尻市に立ち戻った時に、塩尻市役所農政課の方に紹介していただいたのが片丘でした。

そして先ほどの話の通り、一目見てここなら良いブドウを造れると確信し、新しい産地を形成しようと強い志をもって挑戦することに決めました。

開園にあたっては、地域の方々からさまざまなご意見をいただきました。もちろん賛同の声だけでなく、なかには一部の厳しいご意見もあって。

でも、実際に土地をお借りして、草刈りをして、土を耕し、ブドウを植えて…ようやくブドウ畑らしくなってくると、地域の皆さんに「よかった」と言ってもらえるようになったんです。今ようやく認めてもらえるようになって、地元の方々のおかげでワインを造れるようになりました。

2016年に試験的に植え付けをはじめ、2017年に本格的な植栽を開始したブドウの初収穫は2019年。まもなく樽熟が終わり、あとは瓶詰めを残すのみです。7年という月日を経て、やっと「片丘」という名前を冠するワインを世に出せる準備が整いました。

 
 

日本のグランクリュ街道を目指して


(片丘ヴィンヤードの立ち上げと、桔梗ヶ原ワイナリーの開設に携わった勝野)

高瀬:ワイン業界で塩尻といえば、やはり桔梗ヶ原のメルローがあまりに有名です。なので、いずれは「塩尻には片丘という素晴らしい産地もある」という風になってくれたら。片丘は桔梗ヶ原とそれほど距離は離れていませんが、土壌は大きく異なるので、そこから生まれるワインも当然のことながら違いがあります。

勝野:桔梗ヶ原と片丘は、そもそも土地の成り立ちも、標高も異なりますからね。

片丘のほうが50mほど高く、桔梗ヶ原から片丘を見上げると、不思議とそこだけ御光のように光が射していることがあって、いい場所だなと思っていました。実際に畑で作業をしていると、片丘のほうが日照時間は長いように感じます。

高瀬:降水量も片丘のほうが少ないというデータもありますし。同じ気候の地域内においても、地形の影響による小さな気候の違いを実感しています。


(2021年4月より、新しく桔梗ヶ原ワイナリーの栽培・醸造責任者に就任した高瀬

勝野:そういった狭い範囲での微細な気候や土壌などの差異のことを、私たちは「ミクロクリマ」と呼びます。片丘のほうが桔梗ヶ原より若干標高が高いので、平均気温も1度〜2度低いんです。ですからブドウの収穫時期も少し遅いかなと思ったのですが、予想と反して実際は桔梗ヶ原より収穫が早い。

なぜなら、西向きの緩やかな斜面にあるブドウ畑は西日の強い光を受けて一気にブドウが熟すからです。ただし、気温が高すぎないので、とても良い熟し方をする。さらに1日の寒暖差もあるのでブドウの色付きも非常に良いんです。2019年、2020年と2回の収穫を終えましたが大変満足のいくブドウが収穫できました。

勝野:桔梗ヶ原と言えばメルローというイメージがありますが、片丘はメルロー100%にしようとは思っていません。メルロー100%のワインはとてもエレガントでおいしいけれども、単一品種のワインを造る場合、作柄の影響が大きく、どうしても難しい年がでてきてしまいます。

それを補う意味でも、片丘にはメルローと相性のよいカベルネ・フランを10〜20 %の割合で植栽しています。カベルネ・フランはとても気難しい品種ですが、与えてくれるものはたくさんあって、個人的には苦労してでもつくりたいという思いがあります。

― 新しい産地として注目される片丘ですが、今後どんな風に発展していくのでしょうか。

勝野:先ほどミクロクリマの話をしましたが、今後ますます塩尻一帯のブドウ畑は細分化がすすみ、個々の土地の個性を反映したワイン造りが行われるようになると思っています。

桔梗ヶ原と片丘、さらに言うと片丘の中でも北熊井と南内田でクリマは違うので、極端な言い方をすれば、私たちはそれぞれ別の産地だと思っています。今は「片丘ヴィンヤード」と一括りにしていますが、この先ブドウの樹がもっと成熟すれば、より小さな産地でワインを表現していくかもしれません。まだ何も決まっていませんが、私たち造り手はそんな想いで仕事をしています。

片丘にはちょうど東山山麓線という道路が走っているんですが、私はフランス・ブルゴーニュのグランクリュ街道をイメージして、勝手にその道路を「グランクリュ街道」と呼んでいるんです。ブルゴーニュのように地区によって異なる個性のテロワールを持つ銘醸地になればという期待も込めて。片丘は今後、新しいワイナリーも増え、必ずワイン産地として栄えていくはずです。

 
 

教えや技術とともに、想いも未来へつないでいく

― この春から桔梗ヶ原ワイナリーの栽培・醸造責任者に新しく就任した高瀬さんの展望は。

高瀬:大先輩がつくり上げてきた桔梗ヶ原という産地と、勝野さんが地域の方々とつくりあげた新しい片丘という産地の土台を引き継ぐことは、身の引き締まる想いですし、プレッシャーもあります。

ワイン造りはとても時間がかかります。ブドウを植えてから最初にワインができるまで、普通は最低でも3年、片丘だと5年ほどかかります。さらにブドウの樹が成木になっていくまでには10年15年とかかります。だから、きちんと引き継いでいかなければなりません。

また、私はこの地へ来て、今改めて人間関係を育むことの大切さも実感しています。地元の方にご挨拶に伺うと、勝野さんたちが地域の方々としっかりとコミュニケーションをとり、信頼関係を築き上げていることを感じます。畑で作業をしていると、地元の方が声をかけてくださったりして、そういう関わりがとても嬉しくもあるんです。

勝野:「そろそろブドウの実がなる頃じゃない?」とか、「頑張ってね」とか。ブドウの収穫を終えて、「とても良いワインができましたよ」なんて話をしていると、皆さんがとても楽しみにしてくださっているのがわかります。本当にありがたいことですね。

今、改めて片丘でワインを造れることに喜びを感じています。ですから、まずは地元の方に畑を見ていただいて、出来上がったワインを飲んでもらいたいです。

高瀬:シャトー・メルシャンの「日本をワインの銘醸地にする」というビジョンを実現するためには、勝野さんが築いた「片丘ヴィンヤード」の土台を私がきちんと引き継いで、桔梗ヶ原と片丘をさらに発展させることが不可欠です。先輩たちがそうしてくれたように、私もこの地のブドウづくり、ワイン造りを追求し、未来への梯子をつくっていきたいと思っています。

勝野:そう言ってもらえると非常に嬉しいですね。高瀬が言う通り、ワイン造りはとても時間がかかるし、一代で終わることではありません。だから将来を見据えて取り組まねばなりません。

僕が片丘という場所で何を最優先にして畑づくりをしてきたかというと、「はじめにブドウありき」ということです。これは僕が入社したての頃に、大先輩から教わった言葉です。どれだけ良いブドウをつくるか、どれだけ良い畑を維持するか、そしてそれを次世代につないでいけるかということを最優先に畑づくりをしてきました。

今、世界との距離は確実に近づいてきています。日本ワインの発展のためにも、将来この仕事を担う人たちのことを考えて畑をつくっていかなくてはいけません。良いブドウをつくり続けていれば、良いワインをつくることができるのですから。

高瀬:長年醸造の仕事をしてきましたが、片丘ではブドウを育てながらワインをつくることができます。そしてブドウを育てている長い間に、どんなワインをつくるかじっくり考えることもできる。その時間を大切にしながら、今年の秋にはぜひ完成した「片丘ヴィンヤード」のワインを皆さんに味わっていただきたいです。

地域との共生なくして新しい産地、片丘の発展はありません。片丘が近い将来、日本ワインの発展の一翼を担う銘醸地となるよう、シャトー・メルシャンはこれからも地域の皆さんと手を携えながら妥協のないワイン造りを続けていきます。


〜イベント情報〜

【インスタライブ】 片丘ヴィンヤードより初LIVE配信!『片丘』のポテンシャルを語る!

■日程:6月26日(土)14:00~14:20

■出演:
・シャトー・メルシャン 桔梗ヶ原ワイナリー 高瀬秀樹
・ドメーヌ・コーセイ 味村興成氏

■内容:2016年より長野県塩尻市にて圃場を開始した自社管理畑「片丘ヴィンヤード」より、初のLIVE配信を行います。同じ塩尻市にある桔梗ヶ原とは異なるテロワールを有する「片丘」のポテンシャルについて、同じ地でワイン造りに取り組む『ドメーヌ コーセイ』の味村興成氏をお迎えし、お届けいたします。

■視聴方法
<Instagram>
シャトー・メルシャン公式Instagramアカウント(@chateaumercian)をフォローし、ライブ時間にiPhone版またはAndroid版インスタグラムのストーリーからシャトー・メルシャンのアイコンをタップして視聴してください。(※パソコンでは視聴いただけません)
※配信場所により、配信環境が不安定な場合がございますがご了承ください。

【「片丘」の名を冠するワインを確実にゲット!「シャトー・メルシャン プレステージパスポート2021-2022のご案内】

プレステージ・パスポートは、年間12本の特別なワインを4回に分けてご自宅にお届けするとともに、ワイナリーやデジタルでの特別なサービスや各種ご優待をお楽しみいただける会員限定のプログラムです。ご入会いただける時期が限られており、毎年あっという間に完売となってしまいますので、ご興味のある方はぜひ、お早めにお申し込みくださいね。

さらに、今回のプレステージ・パスポート「ダイヤモンドコース」のお届けワインには、「片丘ヴィンヤード」のワインも含まれていますのでお楽しみに!

「シャトー・メルシャン プレステージ・パスポート2021-2022」詳しくはこちらから。
 URL: https://drinx.kirin.co.jp/lp/chmpassport2021_2022/

■お申し込み期間:2021年6月27日(日)まで
※限定数のご用意のため、上限に達した段階で締切となります。


勝野泰朗
2000年に入社、シャトー・メルシャン配属後、栽培と醸造の両方の経験を持つ貴重な存在。ボルドーおよびブルゴーニュでの研修を経て、2013年、ボルドー大学でのDNO(フランス国家認定ワイン醸造士・エノログ)の資格を得て帰国。ブドウおよびワインに対する鋭い観察眼とその対応能力は、チームの高い評価と信頼を得ている。

高瀬秀樹
2005年に入社後、ワインの香りや味わいに関する研究に約10年間従事。2014年に渡仏し、ボルドー大学醸造学部に在籍し、DUAD(ワインテイスティング適正資格)を取得するとともに、フランス各地(ポムロール、エルミタージュ、ニュイ・サン・ジョルジュ)で醸造を経験。2016年に帰国し、2017年1月からシャトー・メルシャンに着任。2017年3月にシラーワインの特徴香の研究で博士号を取得。研究者の視点でブドウ、ワインを見つめながら、海外での醸造経験を活かし、シャトー・メルシャンの絶え間ない進化を目指す。

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