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2020/12/10

ワインを通じてつながる場へ。椀子ワイナリー誕生から1年、変化と歩みを振り返る

2003年、遊休荒廃地化していた上田市丸子地区陣場台地をブドウ畑へと転換し開場した椀子ヴィンヤード。それから16年後、勝沼・桔梗ヶ原に続くシャトー・メルシャン3つ目のワイナリーとして椀子ワイナリーは誕生しました。
そして今年の秋、シャトー・メルシャン椀子ワイナリーは無事に1周年を迎えました。
待望のワイナリー誕生から、一躍世界に認められるまで。躍進の背景とこの1年間で起こった変化を探るために、椀子ワイナリーを訪ねました。
  

日本初の快挙に沸いた夏

7月のある日、ワイナリーで働くスタッフたちのもとに大きなニュースが飛び込んできました。それが「ワールド・ベスト・ヴィンヤード 2020」でシャトー・メルシャン椀子ワイナリーが世界30位に選出されたという知らせ。ワイン観光に取り組む世界最高のワイナリーが選ばれるこのアワードで、日本のワイナリーが選ばれたのは初めてのこと。椀子ワイナリー、ひいては日本のワイン産地が世界に認められた瞬間でした。
この出来事を、「日本ワイン界にとって素晴らしい快挙。素直に祝福したいと思いました」と話すのは、日本在住の日本人として唯一“マスター・オブ・ワイン”の称号をもつ大橋健一氏。
近年、世界各国で活性化が進むワインツーリズムはインバウンド需要の増加や、地方創生へのフックになるなどますます注目が集まっています。
「今回の受賞でわかったのは、椀子ワイナリーには海外の方々も認めるツーリズム・デスティネーション(=観光目的地)としての充実性があること」と大橋氏。
その裏側には、上田市との協力体制や、ツーリズムを地域ぐるみ、町ぐるみで促進してきた背景があります。
  

人、食材、地域をつなぐ場へ

椀子ワイナリーではこの1年、ワイナリーツアーの定期開催をはじめ、イベントや地元食材のPRなどさまざまな取り組みを行ってきました。
そのひとつが、「椀子マルシェ」。
県内外の方々に椀子ワイナリーへ足を運んでいただき、ワインとともに地元上田市の食材・食文化の魅力を発信することで、上田市の地域活性化やワイン文化の醸成に貢献することを目的としています。
今年は入場人数の制限などを設けたなかでの開催となりましたが、昨年に続きたくさんの方々にご来場いただきました。その様子を一部ご紹介したいと思います。


(2020年10月24日(土)、10月25日(日)に2日間にわたって開催された「椀子マルシェ」)

ワイナリーの入口前には、地元のハムやチーズ、信州上田名物の美味だれ焼き鳥、信州じゃ~麺などさまざまなフードのキッチンカーが登場。眼前に広がるブドウ畑を眺めながら、青空の下でワインと共に地元の美味しいフードをお楽しみいただきました。

カレーや麺などその場ですぐに食べられる料理だけでなく、手造り信州味噌やスイーツの販売も。「大桂商店」の味噌を使った焼き菓子は、ワインのお供やお子様たちのおやつとしても人気でした。

丸子地区の若手農業者で結成された「HEART BEATまるこ」ブースでは、ワインに合うささにしきの寿司ブリトーをはじめ、ジャムや生ジュースも。メンバーが育てた大根やかぶの直売も好評で終日賑わいを見せていました。


(シャトー・メルシャン椀子ワイナリー限定発売の「日本の新酒 椀子シャルドネ 2020」と、地元名産を使った料理)

イベント当日は、今年できたての新酒「日本の新酒 椀子シャルドネ 2020」も振る舞われました。栽培・収穫・醸造まですべてを椀子で行われた“ALL椀子”ワイン。パイナップルを連想するような果実の香りと樽由来の香りのバランスが良く、酸味が穏やかな味わいに仕上がっています。

今年は梅雨が長くブドウの生育の遅れが懸念されましたが、夏の晴天で生育スピードが一気に加速。また、収穫日をボトリングする日から逆算しギリギリまで待って収穫を行ったことで、より熟度の高いシャルドネを使った新酒ができました。

会場では老若男女さまざまなお客さまがワインや料理を楽しんでいましたが、お子さま連れのファミリーの姿も多く見られました。
ブドウ畑を背景に写真撮影をしていたご家族に話を伺うと、「このイベントがあると知って週末旅行を計画しました。自然が豊かだから子どもたちも楽しめそうだなと思って。今日は市内で宿泊して、明日は上田観光をする予定です」とのこと。
今年は「ワールド・ベスト・ヴィンヤード 2020」に選ばれたことで県外からの来場者も増え、観光イベントとしても注目度が高まりました。ワイナリーのスタッフによると、想像していた以上にお客様にたくさん来場いただけたそう。
「少人数で運営を行っているのでオペレーションなどの苦労はあるけれど、今後も多くの方に来てもらえるようなイベントに育てていきたい」と話します。
  

現地スタッフが語るワイナリーがもたらした変化

ワイナリーができてから、イベントなどを通じてたくさんの方がワイナリーを訪れるようになりました。そんななか、スタッフの心境にも色んな変化が生まれたそう。
「この1年で、お客様との距離がぐっと近くなった」と話すのは、イベント会場でワインを振る舞っていた小野満有菜。椀子マルシェはお客様の生の声が聞ける貴重な機会だといいます。
椀子ワイナリーで品質管理・栽培を担当している彼女は、食育活動の一環として地元の小学生を対象とした農業体験を行っています。

小野:「ヴィンヤードの隣にある陣場台地(ふれあい農園)で、塩川活性化組合、塩川小学校の生徒さんたちと一緒にじゃがいもの栽培を行っています。今年は新型コロナウイルスの影響で収穫のみとなりましたが、いつもは植え付け、草刈り、収穫のタイミングで年3回の農業体験を行っているんです」


(椀子マルシェ当日も、ブドウ畑を観察する地元の学生さんたちの姿がありました)

これまでも地元の学生さんとの交流は行われてきましたが、ワイナリーができてからはこんな嬉しいことがあったそう。
小野:「昨年、じゃがいもの栽培体験を行った塩川小学校の卒業生がお酒を飲める年齢になってワイナリーへテイスティングに来てくれたんです。とても感慨深くて、『この食育活動をやっていてよかった!』と思いました。これからも農業体験やヴィンヤードでの就業体験学習を通して、子どもたちに食や農業に興味をもってもらえたらいいなと。そして、大人になってお酒が飲めるようになったらまたワイナリーに遊びに来てもらいたいですね」

また、2013年からこの地でブドウ栽培に従事してきた吉田弥三郎は、ワイナリーができてからの変化をこう話します。
吉田:「収穫から仕込みまでをスピーディーに行えるようになって、自分たちでワイン造りを行っている感覚がよりいっそう強くなりました。そして、栽培、醸造という製造工程での経験をお客さんに語ることで、ワインの魅力をより深くお伝えできるようになったことも大きな変化です」

この土地と気候に寄り添い、さまざまな品種・栽培方法を試しながらより良いブドウを作ることに奮闘してきた吉田。自然を相手にする農業は先が読めないことばかりだといいます。
吉田:「2013年から椀子に携わってきましたが、当時より各段にブドウの樹は育ってきて、収穫量も品質も上がってきていると感じます。気候の変化も大きく違ってきて、温暖化の影響なのか、栽培が難しくなってきている品種があったり、逆に良くなってきた品種があったり。今後もどんな変化があるのかわかりません。でも、不安より楽しみのほうが大きいです」

また、近年ブドウ栽培が環境保全の観点から注目されていることについても、こう話します。
吉田:「生態系の調査で、ブドウ畑には多種多様な植物や昆虫が存在していることがわかっています。ブドウ畑を維持することが、生物多様性と自然環境を守ることにつながる。それは理想的な自然共生のかたちです」
  

この土地と人々に恩返しをしていきたい

人と食が集う場、次世代を担う子どもたちの学びの場。豊かな自然を生み出す場。椀子ワイナリーが目指すのは、「自然・地域・未来との共生」を実現する場づくりです。
これは椀子ワイナリー誕生時からのコンセプトであり、すべての取り組みの根幹にある想いでもあります。

ワイナリー長を務める小林弘憲は、このように話します。

小林:「畑しかなかった頃から現在に至るまで、地元の方々の協力でブドウ栽培が成り立っています。そして、皆さんが待ちに待ったワイナリーが昨年ようやく出来た。これからは私たちが、この地域と自然に恩返しをしていく番。これまで以上に地域に根差したワイナリー、地域とともに成長するワイナリー、地域を元気にするワイナリーにしていけたらと思っています。椀子マルシェのように地元の皆さんに楽しんでいただけるイベントも継続して行っていきます」

この地域と自然とともに生きる。そして、子どもたちの未来へとつなげていく。良質なワイン造りだけにとどまらない、ワイナリーがもたらすことのできる価値をこれからも探っていきたいといいます。
  

怒涛の1年間を振り返って

あっという間の1年間。同時に、とにかく濃密な1年間でもありました。変化の連続だった日々をこう振り返ります。

小林:「今年のトピックスはやはり、『ワールド・ベスト・ヴィンヤード 2020』で世界30位に選んでいただけたこと。最初に知らせを聞いた時はびっくりして何が起こっているのか理解できなかったんですが(笑)、海外から祝福メッセージをいただいたりニュースに取り上げられたりして、夢じゃないんだなと実感したのを覚えています。世の中的に不安なニュースも多いなか、私たちにとっても日本ワイン界にとっても明るいニュースとなりました。賞に選ばれているワイナリーを見渡すと、世界的な超一流ワイナリーばかりで身が引き締まる思いです。椀子の景観(畑とワイナリー)が評価されたことはもちろんですが、インバウンド需要に向けた情報発信や、シャトー・メルシャン全体のワイン品質や歴史も総合的に評価いただけた結果だと思っています」

また、ワイン造りはもちろん、スタッフが主体となりイベントやツアー開催にも力を入れてきたことでチームワークも育んできました。椀子ワイナリーのスタッフについて小林は、全員がそれぞれに役割をもって“全員野球”で取り組んでいるといいます。

小林:「椀子ワイナリーのスタッフは、栽培から醸造、ボトリング、ワインの販売やホスピタリティーと、幅広い業務を行います。例えば、畑が主な業務だったスタッフはボトリング技術の習得を、またセラードア(試飲直売所)のスタッフも積極的に畑作業を行ったりと、専門業務の枠を超えて椀子ワイナリーの成長に貢献してくれています」

椀子ワイナリー躍進の裏には、それを支えるスタッフ一人ひとりの地道な日々の積み重ねがありました。

マスター・オブ・ワイン大橋健一氏はこう言います。

「シャトー・メルシャンの強みは、日本ワイン業界全体の強みにもなる」

まだまだ大きいとは言えない日本のワイン市場。業界全体が一丸となって市場を大きくしていくことが欠かせません。日本ワインがさらに活性化するために、「シャトー・メルシャンには日本ワイン界を引っ張っていく使命がある」と小林は語ります。

そのためにも先人たちがそうしてきたように、ブドウ栽培や醸造技術に関して積極的な開示を行い、他ワイナリーから気軽に相談してもらえるような存在になりたいのだ、といいます。
勝沼や桔梗ヶ原に比べるとまだ歴史が浅い椀子ワイナリーですが、自治体や地元の生産者、信州ワインバレーをはじめとする他ワイナリーとの協力体制が少しずつ実を結びはじめています。

「自然・地域・未来との共生」を実現する理想のワイナリーを目指して。

椀子ワイナリーの2年目の挑戦がもう始まっています。
  

今回、記事でご紹介した「椀子ワイナリ―」を含む、シャトー・メルシャンの日本ワインはこちらからご購入いただけます!
URL: https://drinx.kirin.co.jp/wine/chm/
ぜひ年末のひと時を、「日本ワイン」の味わいと共に過ごしてみてはいかがでしょうか。

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